身寄りのない高齢者やひとり親家庭、障害者ら、住宅の賃貸契約を断られやすい「住宅弱者」への対応が急務となっている。大家側が家賃の未払いや孤独死などトラブルを恐れたりするほか、偏見も入り交じって貸すことを拒むケースが多いという。単身世帯の増加などで対象者は今後増えるとみられるが、国の対応は後手に回り、全体数すら把握していないのが実態だ。対策に乗り出す民間業者や当事者らの思いとは。(嶋村光希子)
住宅弱者 低額所得者、被災者、高齢者、障害者、高校生までの子を養育する人らを国は「住宅確保要配慮者」と定義して支援対象にしている。2017年施行の改正住宅セーフティネット法では、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度や入居への経済的支援、要配慮者への入居マッチング支援を行う。
◆高齢、無職、同性カップル、外国人…多くの人たちが直面
「年収や勤務形態、保証人の有無など根掘り葉掘り聞かれたのに、内覧すらさせてもらえなかった」。東京都内のひとり親女性(34)は悔しさをにじませた。複数の物件をあたったが、内覧予約をすっぽかされたり、契約を諦めるよう促されたり。独身時代の家探しと比べ、物件の選択肢は限られ、難航したという。
賃貸物件の契約が困難なのはひとり親世帯に限らない。孤独死などのリスクを抱える高齢者や生活習慣の違いによる近隣トラブルを懸念される外国人、無知による偏見をもたれた性的少数者(LGBTQ)と、さまざまな理由で幅広い人たちが直面している。
不動産情報ポータルサイトを運営する「LIFULL(ライフル)」(東京都千代田区)には切実な声が寄せられる。
「65歳以上のため保証金を倍近く請求された」
「障害により退職し、家賃を下げようと物件を探したがなぜ無職か厳しく問われた」
「女性同士のカップルはトラブルが多そうとの理由で入居を断られた」
同社が住宅弱者1300人を対象にした調査では約6割が物件探しや賃貸契約の際に困った経験があると答えた。
「65歳以上のため保証金を倍近く請求された」
「障害により退職し、家賃を下げようと物件を探したがなぜ無職か厳しく問われた」
「女性同士のカップルはトラブルが多そうとの理由で入居を断られた」
同社が住宅弱者1300人を対象にした調査では約6割が物件探しや賃貸契約の際に困った経験があると答えた。
◆専門サービスが登場
こうした悩みを解決しようと、同社は2019年から住宅弱者の部屋探しに理解のある不動産会社の検索サービス「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」を運営。双方をつなぐ仕組みで、賛同する店舗数は5000店まで伸びた。人工知能(AI)を活用した接客支援も行う。サービスを考案した事業責任者で中国籍の龔軼群 さん(37)は家族らが家探しに苦労した経験があり「生活に必要不可欠なことを決める上で差別を受けるのはおかしい。誰もがなる可能性がある住宅弱者について知って」と訴える。
高齢者やひとり親ら各当事者向けを専門にした不動産仲介も登場。LGBTQら向けに特化する「IRIS(アイリス)」(新宿区)の須藤啓光社長(33)は「先入観や偏見による入居差別は根強い。高齢者や生活保護受給者などの要素が重複するとさらに部屋探しが困難になる」と語る。
住宅弱者に詳しい追手門学院大地域創造学部の葛西 リサ准教授(住宅政策)は「いろいろな事情から家を借りられない住宅弱者は今後も増える」とみる。一方で全国的に空き家は増えており、「双方を橋渡しする存在が必要だ」と指摘している。
◆政府の対策は・・・足りない「専用住宅」
国は住宅弱者を「住宅確保要配慮者」と定めて対策を進めるが十分ではない。
民間住宅を要配慮者向けの「専用...
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