第7回「高齢社会は地方に有利」 人口増めざさない市長の主張

限界先進国

聞き手・宮沢崇志
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 「人口増をめざす政策は意味がない」。そう公言している自治体のトップがいる。愛知県東部にある新城(しんしろ)市の穂積亮次市長(67)である。新城市は6年前、政策提言団体「日本創成会議」が提示した「消滅可能性都市」に、愛知県内の市で唯一含まれた。「うまく縮む政策」を唱える異色の市長に話を聞いた。

 《新城市は2005年に旧新城市、旧鳳来町、旧作手村が合併して誕生した。同年の国勢調査での人口は5万2178人だったが、直近の15年の調査では4万7133人に減っている。旧鳳来町長の穂積氏は、17年10月の市長選で「人口をV字回復させる」と主張した対立候補を批判し、4選を果たした》

 ――なぜ、人口増を訴えなかったのですか。

 「今は人口増をめざすという政策そのものが意味をなさないと思っています。いずれは日本全国減っていくので、自治体間の人口の奪い合いにしかならない。かつての高度成長の姿を未来に求めようという発想ではこれからの時代に立ち向かってはいけません」

 「これから深刻なのは働く人口が加速度的に減っていくこと。コンビニ、宅配、バスの運転手などには人手不足の影響がすでに出ている。生活実感として理解している人も多いでしょう。そんな中で地方がどうやって生きていくかを考えていかなければなりません」

 ――人口減に対して自治体ができることは少なく、「望む移動を助ける」政策が必要だと言っています。これは逆に人が出て行くことにつながるのでは。

 「『出て行きやすい街』は『入ってきやすい街』だということが発想の根底にあります。閉鎖的で同族意識の高い地域は入りにくい街であり、これから人口は収縮していくしかない」

 「ある種の多様性や外国人との共生、異文化との交流など、世界に向かって羽ばたけ、と若い人たちに言える街のほうが、これからの活力につながると思います。『出て行くな』という政策は自治体を閉鎖的にするだけで、これから全体が減っていく中ではますますシュリンク(収縮)していくことになる。人口減のスピードを緩めながら、事業を起こしたいと考える若い世代が起業しやすい地域にしていくことが大切でしょう」

 ――年金生活者が多いことが地域としての収入になる、つまり高齢者が多いほど有利だという逆説的な主張もしていますね。

 「簡単な数式で『高齢社会は地方に有利』という考えに行き着きました。年金制度は個々の自治体ではなく、国全体で運営している。平均より少ない現役世代で1人の高齢者をみる新城のような自治体にしてみると、外部から多くの年金が入ってくることになります」

 「外から金を持ってきてこそ、人口以上の富が集まる。地域の稼ぎ手といえば、まずは民間の優良企業、そして地方交付税を国から持ってくる自治体ですが、それに年金が加わります。中央官庁からも『高齢化の進んだ地域では地域の収入の3分の1は年金』と聞いた。市内の高齢者の年金収入は、市の一般会計、特別会計、企業会計を合わせた約400億円に匹敵する規模になるのではと考えていますが、これが域内で循環し、間接的に若者のプラスになるような方策が必要です」

 ――では地方にとって、高齢者をさらに増やした方が有利ということですか。

 「新城市の高齢者人口がピークを迎える10年後までの賞味期限がある考え方です。生産年齢人口の減少曲線と高齢者人口の増加曲線がクロスしてしまうと、地域の中で活力を維持することが難しくなる。新城市はまだなので、いかに若い世代の生産活動にプラスになる環境を整えていくかが重要になります。それも時間との勝負です。現在は急速に生産人口が減っており、その課題を解決しながら、将来に備えていかなければいけない」

 《人口減少を見越して、新城市では老朽化する公共施設の廃止や統合も検討している。行政サービスの低下につながるこの問題について、市は今年1月にシンポジウムを開き、市民に議論を促した。老朽度や耐震性を基準に廃止を検討するとした17施設について、「一部を残して有効活用するべきだ」との意見も出た一方で、候補以外の施設の廃止を認める声も上がった》

 ――「人口減少時代の街づくり」を新城市では進めていますが、人口問題への関わり方は各自治体で違うのでしょうか。

 「全く違うと思います。明治から日本の人口カーブはぐっと上昇してきたが、ジェットコースターのピークはもう過ぎている。新城市のように人口減少が始まっている自治体は例えるならコースターの先頭部分で、もう下を向いている。けれど、後部はカタカタとピークに向かってまだ上っている状態です」

 「今は人口が増えている自治体でもいずれ減り始め、ある瞬間に最後尾にいる東京圏も含めて日本全体が落ちていく。そうなれば、みんなが真っ青になるでしょう。国も外国人労働者を入れたり、高齢者雇用を増やしたりと対応はしているけれど」

 「地方にいる私たちの立場から言いたいのは、地方分権、地方創生を進めることの重要さです。今はひと頃の勢いがありません。地方がもう少し自律的に地域特性にあった対策を立てられるようにしてほしい。東京一極集中を本気で変えなければ、急激な人口減少に対応するのは難しいと考えています」

     ◇

 ほづみ・りょうじ 旧鳳来町長を経て、2005年に合併した新しい新城市の初代市長に就任し、現在4期目。高校生からおおむね20代までの若い世代で組織する新城市若者議会は、その答申内容が予算措置されることが特徴で、若者の政治参加の実践として注目されている。著書に「自治する日本―地域起点の民主主義」などがある。(聞き手・宮沢崇志)

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