バンダイナムコエンターテインメントのアイドルプロデュースゲーム「アイドルマスター」(アイマス)シリーズは、関連商品・サービスの売上推定総額がパートナー企業も含めて約600億円に上る人気タイトル(2019年度)。同シリーズの総合プロデューサーである坂上陽三氏に成長の軌跡を聞いた前編に続き、後編ではライブイベントを含むビジネス展開と、同シリーズを支えるユーザーコミュニティーとの関係について掘り下げる。

「アイドルマスター」シリーズ総合プロデューサーを務めるバンダイナムコエンターテインメント第2IP事業ディビジョン第1プロダクションエキスパートの坂上陽三氏。ユーザーには「ガミP」という愛称でおなじみ
「アイドルマスター」シリーズ総合プロデューサーを務めるバンダイナムコエンターテインメント第2IP事業ディビジョン第1プロダクションエキスパートの坂上陽三氏。ユーザーには「ガミP」という愛称でおなじみ

<前編「『アイドルマスター』15周年 600億円市場を生んだアイデアの種」

プロデューサーのためのライブイベント

――前編では、「アイマス」シリーズの成り立ちから多ブランド展開までうかがいました。いまやゲームを核に、ライブや音楽配信、アニメ、コミックなどメディア横断的に事業を展開されていますが、同シリーズのIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)戦略について聞かせてください。

坂上陽三氏(以下、坂上氏) ゲーム発である「アイマス」がアニメ発のコンテンツと一番違うのは、主人公がアイドルでなくプロデューサー、つまりユーザー自身ということです。

 ゲームから横展開していく中で最初の大きな事業はライブですが、もともとはユーザーたち、同じ「アイマス」を好きな人たちが集まれるような場所をつくろうというのが目的でした。それはどんな場所だろうと考えたとき、「アイマス」はアイドルが歌を歌うゲームなんだからライブイベントだろうとなったんです。

 主人公であるユーザーが楽しめるのは何か、“プロデューサー感”を感じられるのは何かと言えば、推しのアイドルがライブを開き、歌を歌う。それを「俺が育てた子が頑張ってるなぁ」と思いながら見るということでしょう。そういう世界観をリアルでも提供しようと考えたんです。

プロデューサーとアイドルたちの「交流」の場とも言えるライブイベント。アイドルの声を担当する声優たちが歌う
プロデューサーとアイドルたちの「交流」の場とも言えるライブイベント。アイドルの声を担当する声優たちが歌う

――今でこそ、ゲーム内の楽曲をライブで歌わせることを前提に声優をキャスティングすることが一般的になっていますが、「アイマス」の初期はそうではないですよね?

坂上氏 最初はそこまで考えてスタートしたわけではなかったですからね。だから、キャストからするとある日突然、「イベントやるから」と言われて「えーーー!?」みたいな感じ。「でも集まってくるのは、みんなプロデューサーなんだし、その前で歌ったら喜ぶやろ」くらいの気持ちでした。

――キャスティングの時点ではリアルのライブをすることは想定していなかったのですから、声はキャラのイメージに合っていても見た目のイメージにギャップがあるキャストもいたのではと思います。プロデューサーたちは大丈夫だったのですか?

坂上氏 それが大丈夫でした(笑)。ライブに来るのは、世界観を楽しみにしてくれている人たちだからでしょうね。会場には同じ「アイマス」が好きな人ばかりが集まっていて、さらにそこでキャストが歌ってくれる。意識としては、キャストも自分たちの世界観を再現してくれる仲間なんです。だから、見ているうちにそのキャラが歌っているように見えてくる。ライブ後、飲み屋で「あの曲良かったね」と話しているとき、頭の中でステージに立っているのはそのキャラなんですよ。

――キャラとキャストのイメージが合っているかどうかより、その力を借りて世界観を楽しむところに喜びがあるということですね。例えとして適切か分かりませんが、テレビに野沢雅子さんが出てきて「オッス! オラ悟空」と言ったら、見た目は全然違っても「おお~!」って思う人は多い。あれに近いかもしれませんね。

坂上氏 そうですね。あれに近いかもしれない。

――アニメやコミックはいかがですか?

坂上氏 アイドルとプロデューサーの関係を世界観として再現するのがゲームやイベントであるのに対し、アニメは女の子たちの群像成長劇として描いています。

 ゲームというのはどうしてもキャラクターの描かれ方が“点”になってしまうんです。全体の物語を俯瞰(ふかん)して見ることが難しい。RPG(ロールプレイングゲーム)などでも、60時間プレーしてやっと「え、こいつにはこんな背景があったんだ」と分かるみたいなことがあるじゃないですか。

 「アイマス」の場合も、ゲームではアイドルとプロデューサーの関係以外はあまり描かれません。仕事の話はするけれど、プライベートは全然知らない。ましてやアイドル同士がどんな会話をしているのかは見えません。ゲームで描かれる“点”を取り巻く要素として、アイドル同士の関係を描くことで、“点”を“線”にし、物語自体を楽しんでもらう。それが目的の1つです。

 もう1つは、ゲームをプレーしている今のユーザー層よりも若い世代、特に10代への認知促進ですね。既存のユーザーにも楽しんでもらいたいですが、やはり10代の人たちに「アイマス」を知ってもらって、その世界観を好きになってもらう。そこからゲームに入ってきてもらえればと思っています。

「アイドルマスター」シリーズは企業とのコラボも盛ん。画像は東急ハンズとのコラボ企画第3弾で、同店限定グッズなどを販売した
「アイドルマスター」シリーズは企業とのコラボも盛ん。画像は東急ハンズとのコラボ企画第3弾で、同店限定グッズなどを販売した

――ローソンや東急ハンズなど、企業とのコラボレーションも盛んです。声かけは先方から?

坂上氏 そうですね。担当に好きな方がいらっしゃってというのが多いですが(笑)、「アイマス」はアイドルが300人以上いますし、その中にはケーキが好きな子がいたり、各都道府県出身の子がいたりと、プロフィルも分かりやすくできているので、企画をくださるのでしょう。みんなポジティブで、問題を起こさない子ばかりですしね(笑)。

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