インスタ映えする琵琶湖畔の白鬚神社、マナー違反横行で悲痛の叫び

立て看板を無視して国道を横断するビワイチ参加者=令和3年11月、滋賀県高島市
立て看板を無視して国道を横断するビワイチ参加者=令和3年11月、滋賀県高島市

「横断者が安全に国道を渡れるようにしてほしいのです」。悲痛な叫びをあげるのは、日本遺産で近江最古の大社「白鬚(しらひげ)神社」(滋賀県高島市鵜川)の高橋敬一宮司(60)。「国道161号横断問題」についての異例の要望書を今年4月、国を始め知事、県警、地元市長など関係機関に送付した。同神社は国道161号を挟んで、朱塗りの大鳥居が琵琶湖に浮かぶように建ち、その美しい景観を撮影するために横断する人が絶えない。ただ、そのマナーが問題で、トラブルが絶えず、昨年12月には死亡事故も起こった。このまま放っておける問題ではない。

撮影の男性が死亡

昨年12月9日午前7時15分ごろ、白鬚神社前の国道161号で、横断中の無職男性(79)が軽乗用車にはねられて死亡した。

滋賀県警高島署の調べでは、岐阜市内に住む男性は日の出や大鳥居の撮影を終えた後、神社の駐車場に止めてあった自分の車に戻ろうと、横断歩道のないところを渡っていてはねられたという。

白鬚神社前で国道横断問題を訴える高橋敬一宮司=滋賀県高島市
白鬚神社前で国道横断問題を訴える高橋敬一宮司=滋賀県高島市

皮肉なことに前日の8日には、地元の高島ロータリークラブ(RC)が、国道を横断せずに大鳥居を撮影できるように境内に展望台を寄贈し、供用が始まったばかりだった。

展望台は高さ約3メートル、広さは約10平方メートルで、10人ほどが立って記念写真の撮影を楽しめる。「危険だ」と国道横断が問題になっていたため、RCが創立45周年記念事業として計画し、完成に漕ぎ着けていた。

高橋宮司は「言葉もない」と沈痛な面持ちで語り、今回の要望書提出の一つの要因だったという。

ビワイチ参加者も

展望台は、日中の参拝者にはよく利用されている。ただ、高橋宮司によると、いい写真を撮りたいという早朝のカメラマンなどは展望台には見向きもせず、「横断はご遠慮ください」と記した看板を無視して横断を試みるという。

「職員の呼びかけを無視して撮影をしていた人に神社の駐車場に戻ってきたときに聞いた。『早朝、愛知県から来た』といっていたが、車内には撮影機材が満載されていた。参拝者とは思えなかった」

カメラマンだけでなく、自転車で琵琶湖1周に挑戦するビワイチ参加者のマナーもよくない。

高島ロータリークラブが境内に寄贈した展望台。国道を横断せずに大鳥居を撮影できる
高島ロータリークラブが境内に寄贈した展望台。国道を横断せずに大鳥居を撮影できる

立て看板を無視する▽走行中の車両を止めて自転車で国道を横断する▽横断を控えるようお願いすると「そしたら、どうしたらいいんですか」と不満を漏らす-など。「担当する関係機関で何らかの対策をしていただきたい」と高橋宮司は頭を抱える。

神職が4人いる白鬚神社には、境内に参拝者用の約30台分の駐車場を整備している。しかし、週末や祝日などは、時間帯によっては駐車待ちの車で国道が渋滞するので、神職だけでは対応できず、2人の警備員を配置している。正月など特別な日は警備員を増やすので、神社の負担は大きい。

関係機関が会議

社務所への苦情の電話も相次ぐという。

「あの横断危ないやろ」「国道を渡らすな」「はねたら神社が責任を持つのか」「何とかせえ」

「12月から2月にかけての大鳥居に昇る朝日はまさしく絶景。なぜ、ここに白鬚の神様が鎮座されたかわかる気がする。でも、カメラマンはここが神様の鎮座する神社だとわかっているのか。『ここは神社ですよ』『参拝者のための駐車場ですよ』といいたい」と高橋宮司は語気を強めた。

国道161号は大津市から福井県敦賀市に至り、生活、観光だけでなく経済的にも重要な道路で交通量も多い。神社前は見通しがよく、大型トラックなどは猛スピードで通過する。

観光用の大型陸橋をつくり、湖岸には撮影スポットを整備するなど、「重大事案が発生する前に対策を講じてほしい」と高橋宮司は訴える。

要望書を受け、県など関係機関は来週24日、対策会議を開く。すでに死亡事故が起きており、重大事案が発生する前に対策が必要だ。(野瀬吉信)

会員限定記事会員サービス詳細