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運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する研究成果

掲載日:2019年6月5日

 薬品作用学教室の小山隆太(准教授)、安藤めぐみ(博士課程2年生)、柴田和輝(研究当時:博士課程3年生)、岡本和樹(研究当時:博士課程3年生)、小野寺純也(博士課程1年生)、森下皓平(研究当時:修士課程2年生)、三浦友樹(研究当時:博士課程3年生)、池谷裕二(教授)らの研究グループは、自閉症モデルマウスを用いて、自閉症の治療における運動の有効性を示しました。。本研究成果は、2019年6月4日付けでCell Reportsオンライン版に掲載されました。


発表概要
 自閉症は、社会性障害やコミュニケーション障害を主な症状とする神経発達障害です。自閉症は患者やその家族の生活の質を損ねることが問題となっていました。しかしながら、その発症メカニズムは十分には解明されておらず、根本的な治療法も確立されておりません。
 研究グループは、自発的な運動が自閉症モデルマウスにおける自閉症様行動と、脳内シナプス密度の増加を改善させることを発見しました。また、自閉症モデルマウスでは脳内免疫細胞であるマイクログリアによるシナプス貪食が不全となっており、運動がシナプス貪食を促進させ、シナプス密度を正常化することを明らかにしました。
 本研究から、自閉症の発症および治療におけるマイクログリアの重要性が明らかとなりました。本研究成果が、自閉症の発症メカニズムのさらなる解明や、新規治療ターゲットの創出に繋がることが期待されます。

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1 運動によって、自閉症様行動が改善される:(A) 3チャンバー試験による社会性行動の評価。ケージメイトまたは新奇マウスを探索した時間を測定し、全体の探索時間における割合を算出した。自閉症モデルマウスでは新奇マウスの探索時間が減少し社会性の低下が見られたが、運動によりコントロールレベルまで上昇した。(B) 毛づくろいの時間の測定による常同行動の評価。自閉症モデルマウスでは毛づくろいの時間が増加したが、運動によりコントロールレベルまで減少した。


図2 運動によって、シナプス密度の増加が抑制される:(A) 上:海馬CA3野におけるプレシナプスおよびポストシナプスの免疫染色画像。下:プレシナプスとポストシナプスの共局在部分をシナプスとした。自閉症モデルマウスではシナプス密度が増加した。(B) 発達期から成体期にかけての海馬CA3野におけるシナプス密度。コントロールマウスにおけるシナプス密度の減少が自閉症モデルマウスでは確認されず、60日齢までシナプス密度が維持されていた。一方、運動をさせた自閉症モデルマウスでは60日齢におけるシナプス密度の増加が抑制された。


図3 運動によって、マイクログリアによるシナプス貪食が促進される:(A) マイクログリア、リソソーム、ポストシナプスの免疫染色画像。マイクログリアがリソソーム内にポストシナプスを取り込み、シナプスを貪食する様子。(B) マイクログリアによるシナプス貪食量。自閉症マウスではコントロールマウスより少ないが、運動により増加した。一方運動によるシナプス貪食の促進は、マイクログリア活性化阻害作用のあるミノサイクリン投与で抑制された。


図4 神経細胞の活性化がマイクログリアによるシナプス貪食を促進する:(A) DREADD発現度合とマイクログリアによるシナプス貪食量の関係。CNO投与により神経活動を促進した群では、DREADD発現度合とシナプス貪食量が正に相関した。(B) 本研究の概要。自閉症ではマイクロクログリアによるシナプス貪食が不全となり過剰なシナプスが残存する。そこで、運動により一部の神経細胞が活性化され神経活動の差が生じると、マイクログリアによるシナプス貪食が促進され、神経回路が正常化される。

論文情報

Megumi Andoh, Kazuki Shibata, Kazuki Okamoto, Junya Onodera, Kohei Morishita, Yuki Miura, Yuji Ikegaya, Ryuta Koyama, "Exercise reverses behavioral and synaptic abnormalities after maternal inflammation," Cell Reports: 2019年6月4日

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