Photo Stories撮影ストーリー
スーダンのヌリ遺跡には、70万平方メートルの砂地に20基以上の古代ピラミッドが建っている。(PHOTOGRAPH BY ROBBIE SHONE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
ここはスーダン北部の砂漠地帯。目の前には高さが3階建てほどのピラミッドがそびえ、足元には水中へ降りていく階段がある。この奥に、2300年前のファラオの墓が待っている。
米アリゾナ大学の考古学者ピアース・ポール・クリースマン氏が水没した古代の墓を調査する資金を得たと聞き、ぜひ取材させてほしいと私は申し入れた。
私が到着する数週間前、クリースマン氏はファラオの墓に入り、第1の部屋、第2の部屋、そして一番奥にある第3の部屋まで到達していた。その部屋の、深さ数メートルの水の中に王の石棺らしきものを発見した。これまで、一度も開けられたり触れられたりしたことはないようだった。(参考記事:「河江肖剰(エジプト考古学者):ピラミッドの発掘調査への長い道のり」)
ヌリのピラミッド
このピラミッドと墓は、ナスタセン王のものだ。アフリカのスーダン北部、ナイル川の東岸に近い、面積70万平方メートルのヌリ古代遺跡の中にある。遺跡を空から見ると、紀元前650~前300年の間に建てられた約20基のピラミッドが、宝石を並べたネックレスのように連なっている。
これらのピラミッドの下には、クシュ王国を支配した「黒人ファラオ」たちの墓がある。クシュ王国は、古代エジプト王国の南に位置し、金の豊富な産出地としてエジプトへ黄金を供給していたが、エジプト新王国衰退後の政治的混乱のなか、独自の勢力を拡大し始めた。(参考記事:「特集:古代エジプトを支配した ヌビア人の王たち」)
そうして紀元前760年から前650年の間に、5人のクシュ王がヌビア(スーダン北部地域)から地中海までエジプト全土を支配した。彼らはエジプト王朝初期の宗教儀式を復活させ、ナイル川沿岸で大規模な建造計画を実施した。そのひとつが、ピラミッドを建造し、その下に王を埋葬することだった。
ヌリの遺跡で最大かつ最古のピラミッドに埋葬されているのは、クシュ王国で最も有名なファラオ、タハルカだ。紀元前7世紀に、アッシリアの攻撃からエルサレムを守るために王国の北端まで援軍を送り、旧約聖書にその名を残した。米ハーバード大学のエジプト学者ジョージ・ライスナー氏は、100年前にヌリを訪れ、タハルカ王の巨大ピラミッドの下にある埋葬室を発掘した。(参考記事:「古代エジプトを救った3人の王妃 反撃の物語」)
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