読解力高い子が「国語なんか、勉強したことありません!」という訳…水島醉<2>

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小5で京大2次の問題をすらすら解く

 「これからの受験には、本質的な学力が必要である」、また「本質的な学力を持った子供は、例外なく読解力が非常に高い」という事実を踏まえた上で、前回、私は「読解力を上げる明確な方法がある」と述べました。もちろん、他のさまざまな技能と同じく、それはたやすいことではありません。また、人間だから個体差もあります。ですから結果に幅はありますが、しかし、読解力を上げる明確な方法が存在するのだということは、私が責任を持って皆さまにお伝えしたいことです。

 まずは「高い読解力」について、私の指導してきた子供たちの例を挙げてお話ししたいと思います。

 本当に読解力が高いと思われる子供について、私は試しに大学入試の、それも超難関校の入試国語の問題を解かせてみたりします。たとえ小学生でも、中高の入試問題はもちろん、大学でも中堅クラスの大学の入試問題では、彼らはほとんど満点に近い点数を取ってしまうので、実力の確認、比較対照など、私の知りたい情報が得られないからです。

 私は彼らに、京都大学の文系の2次試験の国語の問題を解かせます(古文、漢文は除く)。その結果、過去に小学5年生の女子が70数点(100点満点換算、以下同じ)という高得点を取ったことがあります。国語だけなら、余裕で京大合格です。だいたいどの子も50~70点ぐらいは平気で取ります。現役高校生でも大人でも、京大の2次試験で70点取れると言い切れる人は少ないのではないでしょうか。50点でもたいしたものです。

 子供たちは「先生、これ難しいなあ」と軽い悲鳴を上げながらも、それでも目を輝かせながら生き生きと解いています。中学・高校入試レベルの問題では、彼らにとって解けて当たり前の感覚がありますから、手応えのある課題は、彼らにはうれしいのでしょう。

出題者の考えや感性まで読み取る力

 また別の話です。ある生徒は、中学入試の模試の国語で満点を取ったことがあります。国語以外の科目なら、満点というのは、多くはありませんが滅多(めった)にないというほど少なくもありません。算数などたいへん難しいにもかかわらず、結構満点を見かけることがあります。しかし、国語で満点というのは非常にまれなことです。

 私は、その、国語で満点を取った生徒の答案をチェックしてみました。確かによく理解してよく解けてはいましたが、1か所、どうしても私の納得のいかない解答がありました。選択肢の問題で、彼女は、私が正しいと思う選択肢と違うものを選んで、○をもらっているのでした。そこで、私は彼女に尋ねてみました。

 「この問題、私は『イ』が正解だと思うんだけれどなあ。どうして、あなたはこれを『エ』だと思ったの?」

 すると彼女は、こう答えました。

 「ええっ、先生も『イ』だと思ったんですか? 私も最初は『イ』が正解かな、と思ったんです。でも、設問の流れからすると、これは、うーん『エ』かな、『エ』と答えてほしいんだろうな、という気がしたので、悩んだんですけど『エ』にしておきました」

 びっくりでしょう。彼女自身も、本当は「イ」が正解だと思ったのだけれども、出題者の感性を設問から読み取って、ここは「エ」なんだと判断した、ということです。

 読解力とは、つまりは、こういうことなのです。文字という記号から、それを書いた者の気持ちや考えを読み取る。この、模試で満点を取った彼女は、出題された元文章の作者の考えや感性だけでなく、それに設問をつけた出題者の考えや感性まで読み取って、それにふさわしい解答をした、ということです。これこそ、高い読解力なのです。

 私は今でも、その設問の最もふさわしい解答は「イ」だと考えていますから、むしろ小学生の彼女の方が、私より読解力が高かったのでしょう。

読解力ある子は三度の飯より読書が好き

国語の成績が良い子供に共通しているのは読書好きであること(写真はイメージです)
国語の成績が良い子供に共通しているのは読書好きであること(写真はイメージです)

 さてこのような、中学入試では満点レベル、超難関大学の入試問題でも50~70%正解するような非常に高い読解力を持った子供たちに、「あなたはどのようにして、国語の勉強をしてきたのか」という質問をしてみます。すると、例外なく全く同じ答えが返ってきます。「国語なんか、勉強したことありません!」。読解力の高い子供は、皆、そう答えます。例外なくです。

 このようなお話をしますと、高い読解力は「学習(努力・訓練)」によるものではなく、「才能(生まれつき持つもの)」によるものではないのか、とお考えになる人もあるかも知れません。しかしそれは違います。

 人は人である以上、個性がありますから、人により得意・不得意があるのは否めない事実です。

 しかし、どんなに高い才能を持って生まれたとしても、その才能を発現させるための訓練は、どうしても必要です。イチロー(元プロ野球選手、鈴木一朗氏)だって、努力に努力を重ねて、人一倍の努力をしてその才能を発現させたわけで、氏がバットを握ることなく、いや握ったとしても人一倍の努力をすることがなかったとしたら、あの数々の大記録は決して生まれなかったことでしょう。

 非常に高い読解力を持つ私の生徒たちも、口では国語など勉強したことがないと言いながら、必ず、どこかで、何らかの形で、読解の訓練をしていたはずです。それは、間違いのないことです。どのような訓練をしていたか。自分では訓練と思っていない訓練、そこに読解力を高める方法へのヒントがありそうです。

 中学入試では満点レベル、京大の入試問題でも50ないし70%正解できる彼らに共通する点は、先に述べました「国語など勉強したことがない」ことに加えて、「きわめて読書が好きである」という点が挙げられます。本当に三度の飯より読書が好き、というような子供ばかりです。

 考えてみれば当たり前の話です。野球が嫌いで、野球などしたことがない子供が、野球が上手なはずがありません。水に漬かったこともないのに、スイスイと泳げる人はいません。鍵盤(けんばん)に触れたこともないのに、軽やかにショパンを奏でられる人もいません。極めて当たり前のことです。同じように、普段本を読まないながら読書力は高い、ということも、決してないのです。

 方法論はさておき(いずれ述べます)、読解力を上げるにはまず文章を読むことです。たくさんの文章を読むことは、確実に国語力を上げるおそらく唯一の方法なのです。

プロフィル
水島 醉( みずしま・よう
 1990年から「エム・アクセス」講師。「問題を解かせる→解説」という授業は国語力の向上につながらないと考え、「読書・思考・記述」を中心とした国語指導を展開している。「読む・聞く⇔書く・話す」の4ルートを鍛えることによって国語の地力を向上させる「視聴話写」という教材を開発。子供の心の成長と学力との関係を重視し、「マインドフルネス学習法」を提唱、授業に応用している。著書に「国語力のある子どもに育てる3つのルールと3つの方法」(ディスカヴァー携書)、「進学塾不要論」(同)など。

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604667 0 マナビレンジャー 合格への道 2019/05/27 09:30:00 2019/05/27 09:30:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/05/20190523-OYT8I50019-T.jpg?type=thumbnail

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