皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第13回 パスファインダー(調べ方案内)の見つけ方

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■ある日の会話

「なんで日本の図書館ではレファレンス・サービスが広まらなかったんでしょう?」

「それは、サービスが目に見えないからさ。カタロガーの仕事は目録カードって形で残るからまだしも、レファレンサー*の仕事は雲散霧消しちゃうから、管理者や理事者からわかりづらいんだよ」

アメリカの図書館では司書がカウンターに常駐し、質問に答えてくれるサービスがあるのに、日本の図書館ではそうでないと授業で習ったが、なぜと聞いたらT先生はこんなふうに答えてくれた。昭和帝死去まもない1990年のことだった。

それからまた代替わりがあったが、状況はあまり変わっていない。むしろ部分的には悪くなったこともある。2011年に国会図書館(NDL)で国民向けレファレンス部局――廃止時は「主題情報部」といった――が廃止されている。

そんな雲散霧消してしまうレファレンス・サービスで、形として残る「商品」の一つが、今回のお題「パスファインダー」ということになる。

 

* T先生がこう言ったかは憶えていないが、レファレンス担当司書をむかし、カタカナ語でこう言った。

 

■パスファインダーってナニ?

パスファインダーというのは、「○○を調べるには、✕✕を△△というキーワードで引きなさい」、ってなメモ書き。調べ方のメモ。実はアメリカの図書館界で1960年代末から紙で作っていて**(【図1】)、一応標準的な書き方というものもあるらしいが、それがネットの普及でウェブに移行してきている。日本の図書館界では20年くらい前から流行り始め、現在では大きな図書館は結構作って自館HPにUPしている。紙をプリントして閲覧室に置いてあることもある。

 

【図1】パスファインダーの初期例「ハーマン・メルヴィル〔を調べるには〕」(1970年代アディソン・ウェスリー出版社製)***

 

 

** 鹿島みづき, 山口純代「図書館パスファインダーに見る次世代図書館の可能性」『情報の科学と技術』52(10)p. 526-537(2002)
*** Encyclopedia of library and information science. vol.21. Marcel Dekker, Inc., 1977, p.470.

 

■パスファインダーの要素(【図1】の説明)

パスファインダーというのは英語のpathfinder、最初に道を見つけるもの、先導者のこと。転じて米国図書館界で「調べるヒント」や「調べ方案内」といった書付けがそう呼ばれた。書物の林で道に迷わないように、先に歩く人。

【図1】を説明すると、だいたいレターサイズ(A4判に近い)1枚くらい。①右上にこの紙のトピック――「文学 — ハーマン・メルヴィル」があり、②本文最初にスコープ欄で、現在では偉大なアメリカ作家とか、百科事典では「メルヴィル,ハーマン」という転置形で立項されているよ、とか補足説明されている。それから、③このメルヴィルを扱う図書をカード目録で探す場合には、「Melville, Herman, 1819-1891」で探すとばっちり適合するとか、「American literature – 19th Century」で探すと広くなるよ、とシステム的検索のキーが提示され、④よく使われる関連書はこれこれと7,8件例示。⑤この図書館では請求記号○○のところに配架されているという司書が書き込む欄(これは出版社が市販したパスファインダーなので)、⑥専門百科や専門文学史の本ならこれこれに記載あり、とあって、最後に⑦メルヴィルについての専門書誌にはこれこれがある、という主題書誌リストが付いている。

ウィキペディア英語版、Pathfinder (library science)の項では、スコープ(定義)、百科事典・専門辞典の項目、専門書、レファレンス図書、文献リスト、論文、関係雑誌、レビュー論文や政府情報といった要素が列挙されている。

で、これが十数年ほど前にようやく日本に入ってきて、電子化されているというわけ。アメリカに1960年代からあったのに、日本でパスファインダーが広がったのが2000年代なのは、業界が真面目にレファレンスに取り組もうとしたブームが1950年代だったから。そして第2次ブーム(2000年頃から)でようやく入ってきて、私立大の図書館で流行り、それが国会図書館にも及んだものらしい。

 

■「書評を見つけるには」というパスファインダーがあるとして

各図書館がいろいろ作って自館サイトにUPしているが、それでもなお、NDLが作って自館サイトの「リサーチ・ナビ」という場所に置いているパスファインダーが、量が多く、一般性もあるので、ここでは主にNDLのパスファインダーの見つけ方を説明する。

ひとつその具体例を出す(【図2】)。

【図2】書評を探す(NDLリサーチ・ナビ内「調べ方案内」の一つ)

 

 

書評のちょっとした定義や説明、何を検索すればいいかなどのリスト――今ふうに言えばリンク集――になっている。「明治期~大正期の文芸書」の書評を見つけるには、後刷りを探すと巻末に書評が転載されているよ、などいうトリビアも載っている。

 

■ある種の分類でディレクトリ的に格納されているのだが……。

このようにそこそこ役立ちそうなNDLのパスファインダーなんだが、これを見つけるのが結構難しい。むかしのディレクトリ型検索エンジンよろしく、トップの分類から順番に、「トップ>調べ方案内>出版・ジャーナリズム・図書館情報学>出版>書評を探す」(このようなWEBページの階層構造の表記を「パンくずリスト」という)と降りていけばよいのかもれないが、そもそもトップの主題配列が、どうやら中の人にしかわからない建制順であるらしく一般性がない(NDC順にすべき)。

逆に、先にこのパスファインダー「書評を探す」を見つけて「国会図書館では他に本がらみでどんなパスファインダーを作っているんだろう?」と探す場合には、このパスファインダー上部の「パンくずリスト」から、例えば「出版」をクリックすると、出版がらみで25件ほどのNDLパスファインダーがあることがわかる(【図3】)。

【図3】パンくずリストの「出版」をクリックした結果

 

 

「出版人を調べる」(【図4】)なんてのもあるなぁ……。このパスファインダーを使えば、出版社社長や有名編集者のことがわかりそうな。

【図4】パスファインダー「出版人を調べる」

 

 

 

■分類が付いているものは、そこから再検索

実はここで私が使っている方法は、先に書評のパスファインダーを見つけておいて、ここに付与されている分類から同類の――ここでは出版がらみの――パスファインダーを見つけているわけである。なんでも良いから適当に、自分が知りたいアイテムを先に見つけておいて、そこに付与されている分類で引き直してみる、という技法は存外に有効で、NDLリサーチ・ナビでは「パンくずリスト」という形でパスファインダーの属性が示されているが、要するに分類と考えてよい。しかし、【図4】の「出版人を調べる」が「パンくずリスト」による再検索で出てきたのは、先に「書評を調べる」を知っていたから。では、そもそも「書評を探す」というパスファインダーをどうやって見つけるか。ふつうの人ならリサーチ・ナビのトップ分類表から「芸術・言語・文学」を選んでしまうことも十分あるだろう。

 

■パスファインダーを見つけるには→実は簡単な方法が

どうやって見つけるかというと、要するに2000年代のヤフーvs.グーグル戦争を勝った側からなぞればよい。検索エンジンのディレクトリ型vs.ロボット型はおおむね、ロボット型が勝ったことになっている。つまりキーワードを使う。簡単である。

書評のパスファインダーをネット上で見つけたいわけだから、検索エンジンで「書評 調べ方案内」で検索すればよい(【図5】)。ちなみに「調べ方案内」というのは、パスファインダーの国会図書館における翻訳語である****。「書評 パスファインダー」で検索すると、現状では大阪府立大の「書評の書き方」が出てきてちょっと笑ってしまう(これはこれで選択肢としてはアリ)。いつ頃からか、Googleではgo.jpなどのドメイン名を持つサイトを優先表示するようになっているので、「○○ 調べ方」で、だいたい国会図書館のパスファインダーが最初に出てくるようになっている。他にも大学や公共図書館のパスファインダーがヒットするので、参考にするとよいだろう。

【図5】Googleで「書評 調べ方案内」で検索した結果

 

 

要するに、リサーチ・ナビにある検索機能はイマイチなので、Google様に探してもらうわけである。もう10年くらい前だったか、愛媛県の図書館協会で調べ方案内の本当の見つけ方としてこの技法を講演したら「どうやって使えばいいか、ずっと疑問でしたが、そうやっていいんですか?!」と、すげぇ驚かれた。けれど、調べ物はちょっと医療に似ていて、自社製品しか使わないで結果が悪いというのはある種の悪だと、私は思う。

 

**** 「調べ方案内」は長いので、普段はただ「〇〇 調べ方」と私は検索している。「パスファインダー」を「調べ方案内」とNDLが呼び替えたことを、2000年代に名著『レファレンスと図書館』を書いた大串夏身先生がとても褒めていたが印象的だった。同感である。

 

■その主題のパスファインダーがない場合

そういえば以前、発行部数を調べるパスファインダーがあったなと思いだして「発行部数 調べ方」で引いてみると、うまくヒットしない。ホントにないの?と思って「発行部数 “調べ方案内”」で検索すると、やっぱりない。結果から見るに、どうやら「出版物統計(雑誌・新聞)」といったものに統合してしまったようだ。パスファインダーのトピックというか、主題の大きさは、あまり大きくない方が良いと思うし、メンテができないものも、一度作ったものは作成日を明示して残しておいたほうが良いと思う。

こういった検索で見当たらない場合は、第11回「レファ協DBの読み方」で紹介したように、レファレンス協同データベースの類似事案を事例として読み替える、といった技法を試すことになる。

類似事案の見つけ方は、とりあえず主題語でレファ協DBを検索するという方法がある。結果の一覧から、新しめの、自分の案件に近いものを選んで読んでみるとよいだろう。

【図6】「発行部数」でレファ協を検索してみる

 

 

レファ協の、ちょっとひねった検索法としては、その事柄で定番のツールがあれば、そのタイトル名で検索してみるという技法もある。発行部数の事例でいえば、たとえば「発行部数」の検索結果を通覧して、一部で『雑誌新聞発行部数事典』という特定的なツールが使われていることを発見し、さらに、このタイトルでレファ協を再検索してみるのである。検索結果を見て、そこで使われているコトバを拾ってまた再検索、というのは私のいう「わらしべ長者法」でもあるし、引用索引的考え方の応用である。同じ文献(ここでは「部数事典」)を使っている文献(ここではレファレンス回答文)は、何らかの意味で関連主題(発行部数がらみ)の文献である。引用された論文から未来に関連論文をたどっていくのが引用索引だったが、レファ協DB内でレファレンスツール名で検索するのは、レファ本の引用索引を使うのと同じ意味になる。「部数事典」を使っている回答文は、質問文に「部数」というコトバを使っていなくとも、なんらかの意味で関連するレファ回答なのである。

 

■次回予告

もうまるまる1年にわたってメルマガに連載させてもらいました。そろそろまとめの記事を書きたいと思いますので次回は最終回。もともとはもっと小さな小ネタ(チップス)を紹介するつもりでしたが、書き始めるとその前提が必要だったことに気づいて、やや広めの予備知識が多い連載となりました。そこで、まとめとして調べ物のノウハウには大きさがあるのではないか、という話をします。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務。2021年に退官し慶應義塾大学文学部講師。専門はレファレンス論のほか、図書館史、出版史、読書史。共著に『公共図書館の冒険』(みすず書房)ほかがあり、『レファレンスと図書館』(皓星社)には大串夏身氏との対談を収める。詳しくはリサーチマップ(https://researchmap.jp/shomotsu/)を参照のこと。

 

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