なぜ、年を取ったら「どんどん食べる」が正解なのか?
第1回 日本人はやせ過ぎ? 食べることで体を守る
伊藤和弘=ライター
「ジャンクフードは避ける」「糖質のとり過ぎはNG」「野菜をしっかり食べる」「肉より魚がいい」……。健康のために食事で気をつけるべきこととして、よくいわれることだ。しかしこれらの常識が、年を取ったらひっくり返るとしたら? 実際、100歳を超えて元気に暮らしている人の中には、毎日甘いものや肉を欠かさない人も珍しくないという。「年を取ったらたくさん食べるほうがいい」と提唱する在宅医療のエキスパート、佐々木淳氏に、新たな「食の常識」を教えていただこう。
『年を取ったら食事は「質より量」』 特集の内容
- 第1回なぜ、年を取ったら「どんどん食べる」が正解なのか?←今回
- 第2回シニアになったら卵は1日1~2個も 塩分、コレステロールは気にし過ぎない
- 第3回毎日肉を食べる! ファストフードもOK 意外な「長生き食」とは
年を取ると太っているほうが長生きする?
肥満が健康に良くないことは常識だ。特に内臓脂肪が増えると高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まり、動脈硬化を進めて脳卒中や心筋梗塞につながってしまう。また、体重が増えると関節に負担がかかり、ケガをしやすくなる問題もある。
健康のためには肥満を予防することが何より重要。食事では食べ過ぎを控え、血糖値を上げる白いごはんや、脂肪の多い肉は少し控えめにして、野菜をたくさんとるべき。塩分や油の多いジャンクフードは避け、肉より魚を食べよう――。これが当たり前だと思っていないだろうか。
ところが、「それは若い人の場合です。年を取ったら食事で大切なのは、とにかくたくさん食べること。やせているよりも、むしろ太ったほうがいいのです」と、目からウロコが落ちるような指摘をするのは、医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳氏。これまでに数千人の高齢者を診察してきた在宅医療のエキスパートだ。
佐々木氏は、2021年12月に『年をとったら食べなさい』(飛鳥新社)を出版し、同書はベストセラーとなっている。
なぜ太ったほうがいいのか。それについて、一般に肥満度の判定に使われるBMI(体格指数)という指標から考えてみよう。BMIとは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数字で、例えば170cmで65kgなら「65÷(1.7×1.7)」で22.49になる。
日本肥満学会では、18.5未満を「低体重(やせ)」、18.5~25未満を「普通体重」、25以上を「肥満」と定義している。最も疾病が少ないのは22のときで、このBMIが22になる体重を「標準体重」と呼ぶ。つまり、標準体重のときが最も健康ということになる。
しかし、日本の中高年、40代以上の約35万人を10年以上追跡した研究(*1)によると、女性で最も死亡リスクが低いBMIは23.0~24.9、男性では25.0~26.9だった。どちらも標準体重より高く、特に男性の場合は軽度の「肥満」に分類されるくらいが最も長生きだった。