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 勘定系システム「MINORI」は刷新せず、運用を見直す――。システム障害について金融庁や財務省から行政処分を受けたみずほ銀行やみずほフィナンシャルグループ(FG)は、再発防止策の方向性をこう説明する。同行の運用に数々の問題点があったのは間違いないが、果たして「運用でカバー」するだけで、次のシステム障害は防げるのだろうか。

 金融庁は、MINORIが複雑なシステムだと指摘するが、複雑であること自体が問題であるとは見なさなかった。システム障害の直接的な原因としては、複雑なMINORIを安定稼働させる保守管理体制をみずほ銀行が整備していなかった点を挙げる。つまりは運用に問題があったとするスタンスだ。

 こうした金融庁のスタンスを受け、みずほFGの坂井辰史社長も2021年11月26日に開いた記者会見で「ハードウエア、ソフトウエア含めてMINORIそのものに大きな欠陥があるという認識ではない」「本来あるべきシステムの運営管理ができていなかった」と主張。システム面の再発防止策は、運用体制の再整備が中心になるとの見解を示した。

みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長
みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長
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IT機器の更新間隔に疑問

 確かにみずほ銀行におけるMINORIの運用体制には数多くの問題点があった。それを象徴するのが、みずほFGが2021年11月26日の記者会見で示した1枚のスライドだ。同社が2021年11月2日に機関投資家向けに配布した資料にも同様のスライドがあった。

MINORIのITインフラストラクチャーを説明した図
MINORIのITインフラストラクチャーを説明した図
(出所:みずほフィナンシャルグループ)
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 これはMINORIのITインフラストラクチャー基盤について説明した図だ。一番下の「ハードウエア故障率(ディスク)」を示す部分からは、みずほ銀行がIT機器を10年に1度更改する方針であるように読み解ける。

 みずほFGとみずほ銀行のIT・システムグループ共同グループ長を兼務する米井公治みずほ銀行副頭取は11月26日の記者会見でこの点を指摘され「10年で更改というのは誤解がある。ハードウエアの部位ごとに適切な年数でメンテナンスを予定している」と弁明した。

稼働から11年のネットワークカードが故障

 しかし実際には、2021年3月3日に起こしたシステム障害は、2010年3月に導入したネットワーク機器(ネットワークスイッチ)のネットワークカードが故障したのが原因だった。稼働開始から丸11年が経過しており、メーカーによる保守期限は2021年7月に終了する予定だった。

 2010年3月に導入したネットワーク機器は複数あり、2021年3月3日に故障したのとは別の筐体(きょうたい)で、2019年1月と2020年6月、2020年9月にネットワークカードが故障していた。稼働開始から時間が経つにつれ、ネットワークカードの故障率は上昇していた。

稼働から6年のハードディスクが故障

 また2021年8月20日に「業務チャネル統合基盤」で起きたシステム障害は、2015年に稼働を開始したストレージ装置でハードディスクが2台連続して故障したのが発端だった。MINORIが全面稼働したのは2019年7月だが、そのテストは2015年から始まっていた。ITインフラを稼働してから6年以上が経過していた。

 故障したストレージ装置のベンダーである富士通が調査したところ、該当するストレージ装置で使用していた特定型番のハードディスクで、読み取り不良などの故障率が足元で上昇していたことが分かっている。

ITインフラの刷新は5年が一般的、クラウド事業者はもっと短い

 企業の基幹系システム、特に止めてはいけないミッション・クリティカル・システムにおいては、サーバーやストレージなどのITインフラは5年で刷新するのが一般的だ。例えば東京証券取引所は2010年1月に株式売買システム「arrowhead」を稼働して以来、2015年9月と2019年11月にシステムを刷新している。

 数十万社にも及ぶ顧客のシステムを預かる大手クラウド事業者は、ITインフラをもっと短い間隔で更新する。米Microsoft(マイクロソフト)や、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)と米Google(グーグル)の親会社が決算資料に記載するITインフラの耐用年数は、サーバーが4年、ネットワーク機器が4~5年だ。

大手クラウドベンダーにおけるIT機器の耐用年数
企業名サーバーネットワーク機器
米アマゾン・ドット・コム4年
米アルファベット4年5年
米マイクロソフト4年4年

 しかもつい最近まで、耐用年数はさらに短かった。マイクロソフトは2019年までサーバーの耐用年数を3年に、ネットワーク機器の耐用年数を2年に設定していた。AWSも2019年までサーバーの耐用年数は3年だった。グーグルも2020年までサーバーとネットワーク機器の耐用年数をそれぞれ3年に設定していた。